ぼくのヒーローR2 第3話 ぎわくのじんぶつ


ありえないだろうと、私はい言いたい。
人間が若返り現象を起こす事もあり得ないが、今目にしているものもありえないだろう。いや、そもそも不老不死という、人間にとってはあり得ない神のごとき・・・いや、女神のごとき私が存在するのだから、あり得ないことなどあり得ないのかもしれないが・・・だが、これは・・・
混乱する思考をいったん停止し、もう一度目の前を見る。
そこには人間が、さらに詳しく言うなら男が1人立っている。
どう見てもふわふわくるくるな、見事な癖っ毛の日本人だ。
しかも見慣れた童顔男。
この顔が二人もいるとは思えないので、一応確認してみる。

「おい、枢木スザク」
「なにC.C.」

即返事が返ってきた。
声もよく知るもの。
やはりスザクに間違いはないようだ。

「お前、どうしてここにいるんだ?」
「どうしてって、彼に会いに来たに決まってるだろ」

それ以外に何があるのさ? ああ、藤堂さんにも会いに来たんだけどね!と、当たり前のようにスザクは言った。

「そういう意味で聞いたんじゃない、お前お飾りの騎士だろう?何でここにいる」

そう、ここは黒の騎士団の秘密のアジト。
黒の騎士団はブリタニアの敵。
つまり、ブリタニアの皇女に忠誠を誓った専任騎士の敵だ。
・・・いや、元々軍属のこいつは敵であったが、先日皇女の騎士となった事で停戦の話もなくなるはずだ。なのに、どうしてここに こいつがいるのだろう。

「なんでって、仕事が終わったから?」

何でそんな事を聞かれるんだろう?と、不思議そうな顔で首を傾げてくるが、童顔とはいえいい年をした男が首を傾げても可愛くはない。
顔は可愛い部類だが駄目だ。
ああ、私の共犯者は例外だぞ。
あれは元の年齢に戻っても可愛い。
時計を見ると20時を回っているが、仕事が終わったとはどういうことだろうか?専任騎士は24時間体制の警備員のようなものだ。緊急時にすぐ姫君の元に馳せ参じるためにも、休みなど名ばかりで、常に主の近くに控えていなければならない。
サラリーマンのように17時になったからサヨウナラでは済まないのだ。

「お前はお飾りの騎士だろう。早く政庁に戻れ」
「お飾りじゃなくてユフィの騎士だよ。いいじゃないかプライベートな時間にどこにいたって。君には関係ないよ」
「お前は馬鹿か?皇女の騎士となった時点でプライベートなど無い」

そんな適当な事をすれば首を切られるぞ。

「君たちはそう言ってたけど、ユフィは何も無い日は自由にしていいって言ってくれたよ。軍務のない日には学校に行ってもいいってさ」
「・・・なんだそれは、騎士ごっこでもしてるのか?」
「ごっこじゃないよ、君は本当に失礼な人だね。それよりゼロは何処?」

きょろきょろとあたりを見回しているが、今この場にゼロは居ない。
むしろ、子供たちも、藤堂たちもいない。
今ここにいるのは、留守を任された私と仙波と数名の科学者だけだ。

「・・・健康診断だ」
「健康診断?」
「ゼロたちの体が本来とはあり得ない状況なのは解っているだろう?」

いくら馬鹿なお前でも。

「そりゃわかってるけど?」

喧嘩売ってるの?
C.C.の物言いに、スザクは不愉快そうに眉を寄せた。
あのルルーシュが今は信じられないほど愛くるしい姿に変わっているのだ。今の姿ももちろん大好きだが、どうすれば以前のような美人で可愛い同い年のルルーシュに戻るのか、戻らなかった時はどうするか、自分なりに色々考えている。

「一応この場所に医療施設はあるが、どれも機械は古いし大がかりなものはない。だから、最新設備のある所へ行って調べているんだよ」

この秘密のアジトは戦前に作られた地下街を改装したものだ。
つまり、どれも7年より前の機械だから、今回黒の騎士団に協力的な医療関係のもとで検査をしている。・・・実際は、ルルーシュのギアスで使用できるようにしているのだが、似たようなものだろう。
今のところ、若返った者たちに変化は見られない。
だが、本来ではあり得ないような変化が体に起きたのだから、いつ異常が起きてもおかしくはない。明日突然全員の心臓が止まっていてもおかしくはないし、幼児から乳児へ、胎児へと退行する可能性だってある。最悪は常に想定し、できるだけその最悪を回避できるよう打てる手はすべて打っておくのだ。
少なくてもウイルス性のものではないし、彼ら以外に幼児退行した者は今のところ現れていない。黒の騎士団にも、それ以外の場所にも。皇室や軍などの大組織の中で秘匿されていれば別だが。

「そっか、それは大事だね。で、いつ戻ってくるの?」
「今日は戻らない。だからお前は帰れ」
「解った。じゃあ明日また来るよ」

あっさり了承し、明日は休みだから朝から来ると言ったので、C.C.は眉を寄せた。

「だから来るな。お前、この場所を軍に教えるつもりか?」
「教える訳ないだろ?今のゼロに対処できると思えないし」

彼と僕が協力し、ブリタニアの改革を行うんだから捕まったら困る。

「なら来るな」
「大丈夫だよ。つけてきた人たちは全員撒いたし、発信器が怖いから途中で着替えたからね」

ただの馬鹿かと思ったが、思ったよりは考えていたらしい。
だが、その内容はどう考えても危険な物だった。

「・・・監視されてるんじゃないのか?」
「まあ、されているね」

あっさりとスザクは答えた。

「そんな状況でくるなんて、やはり馬鹿か」
「あのね、僕への監視は一生続くんだよ?気にしてたら何もできないじゃないか」

なにせ、属国の人間が皇女の騎士となったのだ。
スザクという人物を調べるためのにも、失脚するためのネタを探すためにも、複数の人間が組織的に動き監視するのは当然の流れだ。
元首相の息子。
日本奪還の旗頭となってもおかしくない逸材。
だから、本来であればブリタニアに属している事の方がおかしく、普通に考えるなら反ブリタニア勢力に属している可能性の方が高い。もしそうだった場合これほど美味しい情報はない。スパイだったと証明する事が出来れば、スザクは簡単に処刑されるか、一生日の当らない場所へと閉じ込められるだろう。

そう、例えば日本最大の勢力・黒の騎士団のアジトに出入りしているとか。

・・・駄目じゃないか。

もうここには用はないと、さっさと立ち去った男の背が見えなくなってから、C.C.は携帯電話を取りだした。

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